ミカドの肖像
ここ数年は、作家としてより道路公団問題でのマスコミへの露出が多かった猪瀬直樹さんですが、彼の作家としての出世作と言えるのが、1986年に小学館から出版された「ミカドの肖像」です。翌87年に「大宅壮一賞」を受賞し、ノンフィクション作家として広く世間に知られる事になりました。現在は同賞の選考委員もされているようです。
歴史好きだった私は、天皇を意味する「ミカド」というキーワードに反応してこの本を手にしました。出版されて間もない頃だったと思います。でも内容は私が想像した歴史モノとは大分違って、天皇そのものを扱ったのではなく、天皇というブランドがどのよう創り出され、守られ、また利用されているか、という検証でした。面白そうだったのですが、ハードカバー本は高くて買えませんでした。その後91年に「ミカドの肖像―プリンスホテルの謎」と題して小学館ライブラリー版(ちょっと大き目の文庫)になったモノを読みました。そう、サブタイトルにもなったように、この本の中で一番興味深かったのは、プリンスホテルに関する部分だったんです。つまり、先日逮捕された堤義明容疑者の父康次郎氏が、いかにしてあのプリンスホテルグループを創り、西武グループ繁栄の基盤を固めたのか、という話なんです。20年も前の著作ですが、中々旬な話題を扱っていると思います。
残念ながらライブラリー版は品切れ状態、と思ったら、間もなく文庫版が出るようです。小学館のサイトで検索しても見つからないんですが、@nifty Booksでは3月8日発売になっています。そうですよ、今売らなくて何時売るのこの話題本。新装版出さなくても、ライブラリー版を重版すればいいのに、と素人の私でも思うので、小学館さんはきっと何か策を講じていることでしょう。
この本を読む前の独身呉服屋店員の頃、年に何度かある展示会の内1回は赤坂プリンスホテル旧館を使うのが恒例で、私も中に入っています。この旧館はホテルといっても文明開化の頃に建てた様なお屋敷の造りになっており、展示会では全館貸切で使用していたと記憶しています。入社して初めての展示会もここだったので、お客様を迎える為にそのお屋敷の玄関に並んでいて、緊張して足が震えたのを覚えています。
ビルになっている新館の横にひっそりと建っている、という感のある旧館でしたが、きっと創業当時の建物を大切にしているのだろう、と当時は思っていました。でも「ミカドの肖像」を読んで謎が解けました。あの旧館は、まさにプリンスのお屋敷だったのです。検索してみたら近代建築散策というサイトに写真もありました。ここでも紹介されいるように、戦前は李氏朝鮮最後の皇太子のお住まいだったのです。朝鮮の皇太子が何故日本に住み、日本の皇族の女性と結婚していたのか、という戦前の歴史もこの本で知りました。
本書によると、戦時下の日本にあって、終戦後の土地高騰を予想していた堤康次郎氏は、空襲警報が鳴る中でも電話をかけまくって土地を買いあさっていたそうです。そして戦後、旧皇族が皇籍離脱させられ、天皇家にも固定資産税が課せられる事になった時、現金が無いだろう彼らから屋敷を買い取っていたのも康次郎氏でした。東京にあるプリンスホテルは、ほとんどが旧皇族の屋敷だったところで、赤プリ旧館のようにお屋敷そのものを利用している所もあるわけです。プリンスホテルという名も、そこからの命名だそうです。
この本を読んだ当時は、まだバブルが崩壊しきっていない頃でした。成功する人は考える事が違うわ、と感心するやら恐れ入るやらでしたが、今読むとまた違った感慨があるかもしれません。
3/8 追記
先ほど小学館のサイトから検索したらs-book.comの情報がありました。やっぱり今日発売みたいです。でも@nifty Booksの方は4月に変わっている、どっちでしょうか。
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